五十肩

基本情報

いわゆる四十肩・五十肩というのは40~50歳代の人を中心に肩関節の痛みと運動制限を主とした病気です。古くは江戸時代に「俚言集覧」という書物に記載があります。ここには「五十歳ばかりの時、手腕、骨節痛む事あり、程過ぎれば薬せずして癒るものなり」と記載があります。当時は人生五十歳までという時代で、関節が痛むのは歳のせいだから仕方がない、というような考えがあったようです。
高齢化社会になった現代でも好発するのは50歳代ですが、40歳代、60歳代でも多くみられます。
病院や鍼灸院に来る段階は「すぐ治るかと思ったけど」という訴えで、主に肩の痛みと可動域制限(手が挙がらない、回らない等)を呈しています。病期は急性期、慢性期、緩解期に分けられます。

五十肩の症状

急性期
始めは肩関節の違和感を感じます。違和感程度なので、普段通りの日常生活を送っていると徐々に痛みが強くなります。肩を挙げる時、手を後ろに回す時に痛みを伴うことが多くあります。仰向けで寝ている時にも痛みを伴うことがあります。日常生活では髪を洗ったり、上着の着替え、などで障害が出ます。前方で荷物を持つ時に痛みを感じることもあり、常に肩のことを気にして生活しなければいけなくなります。通常、2,3週間で急性期の痛みは軽減しますが、1カ月以上痛みが続くことがあります。

慢性期
慢性期では、まだ肩関節の炎症が続いており、手を挙げたり後ろに回す時に肩痛を伴いますが、その痛みの程度は少しずつ軽減してきます。肩の痛みが軽減する代わりに肩関節の可動域が悪くなります。「今まで手が水平まで挙げられたが、そこまで挙がらなくなってきた」というような訴えがあるのもこの時期です。
夜間痛は徐々に軽快しますが、寝返り動作で肩痛のため目が覚めてしまうこともあります。肩関節の固さが強まるため日常生活での障害は急性期以上に障害を伴います。一般的に整形外科ではこの時期からリハビリテーションを開始します。

回復期
回復期では安静時の痛みは治まり、手を挙げる、ズボンのお尻側を引き上げる動作での痛みは残存しています。肩関節の可動域は徐々に改善し前方に手が挙がりやすくなります。動作時の痛みは慢性期ほどではなく、慢性期より動かしやすくなります。横から手を挙げる動作、後ろに手を回す動作、後ろに手を回し肘を曲げる動作は障害が残ることが多いです。一般的にこの時期は積極的なリハビリテーションを行います。

五十肩の原因

腕神経叢イラスト

中国の医学書では五十肩のことを別名「肩凝症」といいます。つまり、肩こりの人に五十肩が多いということです。肩こりで説明しましたが、肩こりの原因は首の筋肉の緊張です。首の筋肉の間から肩や腕に走行する神経が出ており(右図参照)、首の筋肉が緊張しているかどうかをまず確認します。
五十肩で肩だけでなく、肘と手首の間(前腕)の痛みを生じることがあるのも、この神経の走行で説明が出来ます。筋肉が神経を締め付ける部位は筋肉と神経が直交している所、すなわち首の側部と肩甲骨前側になります。これらの箇所にある前斜角筋、中斜角筋、肩甲下筋は痛みの原因筋となることが多いです。

 

五十肩の評価

問診では、まず夜間痛の有無を確認します。日中、肩を動かして痛みがあるのは特徴ですが、夜間に痛みが出て眠れないとなると日中より夜間の方が辛いとなります。そのため、夜間痛がある場合は、この夜間痛を治すことがポイントとなります。

次に圧痛点を確認します。肩関節は種々の筋肉、腱、靭帯、関節包などの組織が多く存在しており、どこに圧痛点があるか、でおおよそどの筋肉に問題があるのか分かります。

肩圧痛点のイラスト

①:棘上筋
②:棘下筋
③:肩甲挙筋
④:棘上筋遠位部
⑤:三角筋
⑥:肩甲下筋
⑦:上腕二頭筋長頭腱

代表的な圧痛点は上図に示したものです。①の棘上筋ですが、外側へ向かって走行しているため、①から斜め外側へ圧迫します。

次に運動検査です。主に4つの動きを評価します。

肩関節屈曲、外転

①は総合型です。ほとんどの方はこの動作に制限や痛みを伴います。重症なケースだと水平まで挙がりません。この動作が出来ないのは棘上筋、棘下筋、肩甲下筋、小円筋、三角筋、烏口腕筋、肩峰下滑液包など多くの筋や組織の問題です。

②は棘上筋・三角筋型です。棘上筋、三角筋の問題があると、この動作で肩関節の中が痛みます。

結帯動作、反対の肩を触る動作

③は肩甲下筋・烏口腕筋型です。肩甲下筋、烏口腕筋に問題があるとこの動作で痛みや運動制限が起こります。エプロンの紐が結べない、ズボンの後ろポケットが使えない等の問題が生じます。

④は棘下筋・肩甲挙筋型です。反対の肩を触ろうとすると肩の後方や肩甲骨の上側に痛みを伴い、運動制限を生じます。

治療方法

五十肩には、急性期、慢性期、回復期があると書きましたが、当院の鍼治療は急性期から回復期まで適応です。関節の可動範囲が少なくなることを「拘縮」といいますが、拘縮している期間が短いほど改善は早いです。初診時に経過のお話を伺いますが、拘縮している期間が長い場合は施術をお断りすることもあります。

まずは第7頚椎外側1横指半へ直刺します。夜間痛がある場合はこの部位が硬いことが多く、直径0.3mmの50~60mm鍼を刺入します。基本通りに1椎体ずつの間隔で第7胸椎まで刺鍼します。大部分の夜間痛は1回の施術で半減し、2~3回の施術で消失します。棘上筋に問題があれば、頚椎の刺鍼をする前に棘上筋刺鍼を行います。棘上筋の刺入は直径0.4~0.5mmの長さ75~100mm鍼を使用します。肩井辺りから上腕骨頭へ向けて棘上筋の中を貫くように刺鍼します(下図①)。この方法で効果が良くない場合、又は腕が上がらない場合は②や③のように刺入する場合もあります。②一般的には棘上筋から棘上窩へ向けて50mmの鍼を肩甲棘根部へ刺入します。③肩峰の側から上腕骨頭の上を通し、棘上筋へ刺入する場合もあります。この場合は長さ50~60mmの鍼を使用し肩峰下部を狙い刺入します。

棘上筋の刺入方法1

棘上筋の刺鍼が終わったら第7頚椎より頭方へ夾脊穴へ刺鍼した後、中斜角筋前斜角筋、肩甲挙筋、後斜角筋、上項線へ刺入します。

腹臥位で腕を降ろす

頸部刺鍼が終わったら、棘下筋の硬さを触診し硬さがあった場合は棘下筋を刺鍼します。棘下筋と大円筋、小円筋は隣り合っているので、この3筋をセットで刺鍼していきます。次に脇の下付近の胸郭(肋骨)の位置を確認し肩甲下筋を触診します。肩甲下筋に硬さがあった場合は肩甲下筋に5,6本刺鍼します。腕を挙げられない場合はベッドから手を降ろした姿勢で施術します。右図のように台を置くと35分間の置鍼も楽です。腕がほとんど挙がらない、又はペンギンの羽程度しか動かない人は腕を身体に付けた状態で施術します。このようなケースは稀ですが時間をかけて施術していくうちに手が身体から離れるようになります。

 

このように、まず頚部刺鍼を基本として行い、
棘上筋の施術で、物を持った時の肩痛が軽快する。
肩甲下筋、烏口腕筋の施術で、腕を挙上する、後ろへ手を回す動作が改善する。
棘下筋、小円筋、大円筋の施術で反対側の肩に触れる動作が改善する。
このような考え方で治療部位を決定します。