坐骨神経痛

基礎情報

古典的に「坐骨神経痛」という病名がありましたが、原因疾患が明らかになり「坐骨神経痛」という病名は使われなくなりました。例えば「腰椎椎間板ヘルニアが原因の坐骨神経痛」というような形で使われています。鍼灸臨床では原因疾患を念頭に置き、疼痛域や圧痛部位、その他神経学的所見を評価して、治療方針を決めます。

症状

臀部や大腿部、ふくらはぎの痛みやしびれ感を主訴として、下肢の筋力低下を伴うこともあります。痛みといっても様々で、圧迫感、鈍痛、激痛、電撃痛などがあり、しびれもビリビリ感や違和感など多種多様です。

原疾患と坐骨神経痛

腰・仙椎に関する坐骨神経痛
変形性脊椎症は加齢により椎体が潰れて椎体の上端と下端が爪のように出っ張ります。これを骨棘といいいます。この骨棘が腰椎の脇にある神経根を刺激する場合があります。この刺激する位置が、坐骨神経に一致する場所だと坐骨神経痛が起こる可能性があります。具体的には第4,5腰椎の高さで、神経根に問題がないか確認します。
腰椎椎間板ヘルニアは椎間板の髄核が脱出して神経根を圧迫する病変で、発生頻度は高いですが鍼灸で効果的なことは多いです。
腰椎椎間関節症は椎間関節の障害で、関節部の炎症や肥大で神経根が刺激され、坐骨神経痛や腰痛になります。
腰部脊柱管狭窄症は腰痛、下肢痛を訴え、数十メートル歩くと腰痛や下肢の神経痛を伴う病気です。この場合、鍼灸は約半数で著効します。

その他の疾患に伴う坐骨神経痛
梨状筋症候群は鍼灸の最も適応となる疾患です。坐骨神経は臀部で梨状筋のすぐ下を走行していて、梨状筋の緊張が坐骨神経に刺激を与えて痛みを生じます。また、鍼灸の医学博士である木下晴都は大腰筋の痙縮による腰神経があることを報告しています(最新鍼灸治療学 下巻p80)。坐骨神経は腰椎の脇から枝を出してすぐに大腰筋内を通過します。この大腰筋に緊張があると坐骨神経に刺激が入りやすく、神経痛を呈することがあります。

検査

問診で「どのような姿勢で痛いか」という質問に対し、「お辞儀をする姿勢で痛い」と返答があった場合は、立位で体前屈をしてもらいます。直立した背骨を前屈して坐骨神経領域に放散痛があれば、ゴールドフラム徴候陽性とします。また、体が硬い人が多いので前屈した指先から床の距離を計ることもあります。
立位姿勢では、脊柱に側弯がないか確認します。神経根の外側にヘルニアがあれば、患側が凸に、内側にあれば健側凸になるといわれています。痛みから逃避するために側弯を呈しているという見立てです。

坐骨神経伸展試験

代表的な検査はラセーグ徴候で、これはあお向けに寝た姿勢で膝を伸ばしたまま下肢を上げて、大腿後面に放散痛が起こるものを陽性とします。陽性の場合、腰椎椎間板ヘルニアや腰椎すべり症などが疑われます。下肢を伸ばして挙上するので下肢伸展挙上テストまたはSLR-testといいます。
ブラガード・テストは下肢挙上後に、足関節の背屈を加えます。背屈とは、足の甲を脛側に曲げることです。このテストはラセーグ徴候陽性の場合は必ず陽性となります。ラセーグ徴候が陰性でも陽性となる場合があり、確認の意味で行います。陽性で疑われる疾患はラセーグ徴候と同じです。

圧痛

当院では筋肉の硬化により坐骨神経痛が起こるという考え方ですので、重要な検査です。坐骨神経が筋肉の硬化により起こりやすい場所は限られており、次の3点がポイントとなります。

①大殿筋:あお向けで膝を立てて、臍から斜め下方5cmの部位を圧迫します。
②梨状筋:うつ伏せで大転子と仙骨間を圧迫します。
③下腿三頭筋:うつ伏せでふくらはぎ部分を圧迫します。

上記①~③の部位を圧迫して違和感や痛み、しびれ等の反応がある部位が問題の筋になります。

メカニズム

上図(骨盤)のように坐骨神経の出発点の上端は第4,5腰椎の外側から出ています。この部位はちょうど大腰筋が走行している部位になるので大腰筋の緊張を神経が受けやすい部位といえます。
また、殿部の図からわかるように、坐骨神経は梨状筋と上双子筋の間から出ています。この部位は梨状筋と上双子筋の圧迫を受けやすい部位といえます。
そして、骨盤から足が書かれているイラストでは黒い線が坐骨神経ですが、ふくらはぎの部分で見えなくなっています。これは坐骨神経が筋肉の下に走行していることを意味しています。

このように解剖学的な根拠を基に治療プランを決めることが、非常に重要なのです。