股関節の構造

股関節の概要

股関節は胴体と脚の間にある人体で最も大きな関節です。
まず、股関節の構造について確認しましょう。股関節は骨盤の外側にある臼状のくぼみ(寛骨臼)と太腿の骨(大腿骨)の上端にある大腿骨頭から成る関節です。
寛骨臼のくぼみが大腿骨頭の先端(大腿骨頭)を包み込むような形状です。大腿骨頭の2/3は寛骨臼内に収まり、股関節は三次元で様々な方向へ動かせます。
図は右股関節の前方と後方からのイラストです。一番外側の大転子は太腿の外側で触れることができます。

寛骨臼と大腿骨頭は、関節包という組織と、関節包の外側にあり骨と骨をつなぐ丈夫な線維組織である靭帯でつながれています。関節包と靭帯は関節が動きすぎないよう制限したり、関節の脱臼を防いだりします。この関節包と靭帯はかなり強度のある組織ですが、この組織が硬くなりすぎると関節の動きを正常以下に低下させます。

軟骨の構造】

関節軟骨の最大の特徴は、細胞が少なく。血行がないことです。関節軟骨はスポンジに水分を含ませたような状態になっており、その70%が水分、20%がコラーゲン線維、10%がヒアルロン酸、グルコサミンなどとなっています。また関節軟骨は関節面から表層ー中間層ー深層ー石灰下層の4つに分けられます。

関節軟骨の機能

関節軟骨は衝撃吸収機能と潤滑機能を有しています。例えば普通に歩くだけで股関節には体重の3倍以上の力が加わるとされています。この衝撃をやさしく受け止め、衝撃を吸収してくれています。
ヒアルロン酸やグルコサミンなどの「うるおい成分」で軟骨細胞の水分を保ち、コラーゲンなどの「張り成分」でプルンとはね返る弾力性を保っているのです。サプリメントの広告ではこれらの成分が関節に効くと謳っていますが、そのエビデンスはまだ分かっていないようです。

関節包の構造

関節包は滑膜内膜、滑膜下層、線維膜に分けられます。つまり(滑膜+線維膜=関節包)ということです。滑膜内膜は2~3層の滑膜細胞とヒアルロン酸やコラーゲンといった組織から構成されています。滑膜下層には毛細血管が多く分布しています。線維膜は関節包の最も外側にある組織で、端は骨膜に移行しており、関節の安定に関わっています。

関節包の機能

滑膜はコンドロイチンやヒアルロン酸などが産生するうすい膜で、この組織が関節液を産生します。この関節液は摩擦を減らす潤滑油の役割を果たし、軟骨に栄養を与えます。また、柔軟性に富むため関節包の伸張性に寄与しています。滑膜下層は脂肪型と線維型があり、特に大きな伸張性が必要な部位は脂肪型の滑膜下層であることが多いです。
線維膜には痛み刺激を受容する自由神経終末のほか、ルフィニ小体、パチニ小体、ゴルジ腱器官といった受容器が分布しています。これらはメカノレセプターと呼ばれ、関節の位置覚や運動覚のセンサーとなっています。人工股関節の手術をするとこの関節包を切除するため、術後しばらくの間は脱臼のリスクが伴います。

靭帯の構造

靭帯の主要成分はコラーゲン線維による密性結合組織です。コラーゲン線維の多くが靭帯の長軸方向にほぼ平行に配列しているため、靭帯は大きな張力に抵抗することができます。

靭帯の機能

靭帯の主な機能は、関節の構造から逸脱するような運動を制御します。例えば歩行する時に蹴り出り側の太腿は後方にあります。この時、股関節の前側にある靭帯が伸張され必要以上に後方へ蹴り出さないように制動してくれるのです。

股関節の靭帯

大腿骨頭靭帯は寛骨臼窩と大腿骨頭窩を結ぶ約3cmの強靭な靭帯です。大腿骨頭靭帯は閉鎖動脈、内側大腿回旋動脈から供給される血行を骨頭に送る働きがあります。この靭帯は内転の時だけ作用して、骨頭固定の力学的な作用はありません。
腸骨大腿靭帯は人体で最強の靭帯であり、下前腸骨棘から扇状にひろがり、転子間につきます。中央部分は薄く、比較的弱いが上部と下部は強い。
恥骨大腿靭帯は恥骨と小転子を結び、関節の前面を補強しています。

屈曲 伸展 外転 内転 外旋 内旋
腸骨大腿靭帯(上)
腸骨大腿靭帯(下) ー  ⧺ 
恥骨大腿靭帯
坐骨大腿靭帯
大腿骨頭靭帯

※伸張:+ 弛緩:-

大腿骨の形態特性

大腿骨の頚部には頚体角や前捻角といった曲がりやねじれがあります。
頚体角は大腿骨体と大腿骨頚がなす角です。この頚体角は年齢と共に角度が変わります。幼児期には約135°、成人では約125°、高齢者では約120°と年齢が増すごとに内反していきます。これは成長と共に立つ、歩くといった動作を繰り返すためです。重力の影響により大腿骨頭には垂直方向に力が加わります。さらに安定した姿勢や動作を行うために外側にある中殿筋が働き大転子は上に引っ張られるような力が加わるため、少しずつ内反していきます。
次に前捻角ですが、大腿骨頸部は遠位の大腿骨顆部に対して前方に10~15度前方を向いています(図参照)。前捻角は生後、30~40°と大きいですが、次第に減少して16歳ごろまでに15°になります。

臼蓋形成不全の指標

臼蓋形成不全の判定基準としては、X線正面像において、CE角≦20°、Shap角≧45°、AHI<75%、寛骨臼蓋荷重部傾斜角>15°などが用いられます。

CE角:骨頭中心を通る垂線と骨頭中心と寛骨臼外側縁とを結ぶ線との成す角度
Sharp角:左右涙痕下端の接線と涙痕下端と寛骨臼外側縁とを結ぶ線との成す角度
AHI:大腿骨頭内側縁から寛骨臼外側縁までの距離(A)を大腿骨内側縁から外側縁までの距離(B)で除し、百分率で表した値
寛骨臼荷重部傾斜角:寛骨臼の荷重部(月状面)の内側縁と外側縁とを結ぶ線と水平線との成す角度