自律神経失調症

自律神経とは

自律神経系は心拍数、血圧、呼吸、消化、発汗、体温維持など生きていくのに重要な機能を調節するシステムで交感神経と副交感神経に分けられます。このシステムの特徴は自分自身で調整できないことです。例えば、運動をすると心拍数が上がります、また汗も出てきます。これは自分自身の意思ではなく交感神経の働きで心拍数が上がったのです。大勢の人の前で話すと緊張して汗が出るのも交感神経の働きです。反対に眠っている時は心拍数や血圧が下がるのは副交感神経の働きです。眠っている時によだれが出るのも副交感神経の働きです。常に交感神経と副交感神経がバランスをとり、私たちは日常生活を送っているのです。
自律神経とは解剖学的に交感神経、副交感神経、腸神経の3つに分けられます。

交感神経と副交感神経の働き

交感神経の働きが優位になると、「戦う、逃げる」というような反応が出ます。具体的に血圧や心拍数の増加し、心身共に緊張状態となります。古代では外敵から身を守るため、このような働きはとても重要でした。現代ではそのようなことは無くなりましたが、朝から晩までパソコン操作をする、ゲームのやりすぎ、対人関係など交感神経の活動を高める要素は多くあります。
一方、副交感神経の働きが優位になると、血圧や心拍数は低下し心身ともにリラックスした状態となります。

下記の表は自律神経と各器官の関係を示したものです。

器官 交感神経 副交感神経
瞳孔散大 瞳孔収縮
唾液腺 分泌減少(粘性がある) 分泌増加(水っぽい)
心臓 心拍数増加 心拍数減少
気管、気管支 気管支分泌液減少、気管支拡張 気管支分泌液増加、気管支収縮
胃腸管 運動の減少 運動の増加
肝臓 グリコーゲン分解 グリコーゲン合成
男性生殖器 射精 勃起
皮膚 血管収縮、発汗、立毛筋収縮

また、内臓器官の多くは、交感神経と副交感神経両方に支配されています。しかし、例外的に単独支配される内臓器官があります。

交感神経のみ:瞳孔散大筋、副腎髄質、脾臓、腎臓、汗腺、立毛筋、大部分の血管(皮膚、骨格筋)
副交感神経のみ:瞳孔括約筋、涙腺

上図で注目していただきたいのは、「交感神経のみ」に「大部分の血管」が入っていることです。交感神経優位が続くと血管が収縮する時間が長くなり血流障害が起こりやすくなるのです。

下図は交感神経と副交感神経が各器官に枝を出している模式図です。赤が交感神経、青が副交感神経になります。

自律神経と各器官の関係

上図の左側にある円柱状の物が脊髄神経です。脊髄神経とは背骨(脊柱)の中に入っている神経の束です。ここから交感神経と副交感神経は出ています。交感神経は胸髄、腰髄から始まるので胸腰系と呼ばれ、副交感神経は脳幹、仙髄から始まるので頭仙系と呼ばれます。

自律神経失調症の症状

肩こり、腰痛、食欲不振、便秘、胃炎、胃潰瘍、高血圧、痔、静脈瘤、子宮内膜症、卵管癒着、不妊、疲れやすい、だるい、歯槽膿漏、四肢の冷え、頻尿、声がかすれる、頭痛感、関節が重く痛い、多汗症、不眠症、うつ

このように、とても多くの症状をきたすことが分かるかと思います。症状の特徴としては90%以上の場合、交感神経の活動が過多となり自律神経失調症となることです。

鍼による治療法

鍼師となり臨床をやっていく中で鍼施術をすると自律神経系に強い影響を与えることが分かりました。鍼を刺入すると少量の痛みと組織破壊により、危険からの逃避反射を誘発します。この逃避反射は驚き反射となることが多く、自律神経系への刺激となります。交感神経が過緊張であれば交感神経症状を抑制し、副交感神経が過緊張であれば副交感神経症状を抑制します。

交感神経は脊髄から前へ出て脊椎(背骨)の脇前側に交感神経幹という組織へ入ります。ここから中継地点を経て対象器官へ枝を出しています。交感神経から出ている枝は脊柱(背骨)の後方に出ている枝があり(これを後枝という)、この後枝は脊柱(背骨)脇に付いている脊柱起立筋の中に入っています。この脊柱起立筋を緩めると、脊髄神経や交感神経幹へ刺激が入り自律神経のアンバランスを補正するというのが、治療の考え方となります。

施術のポイントは「夾脊」の刺鍼です。下記の部位が刺入位置になります。

自律神経失調症の刺鍼部位

家庭での養生法

自律神経は24時間絶え間なく活動しています。普段の生活で気をつけた方が良い点を説明します。

入浴

出来るだけ入浴した時は湯船に浸かりましょう。湯温は40~41度で首まで浸かるようにしましょう。入浴後約1時間半で体温が下がり始め、副交感神経のスイッチが入りやすくなります。シャワーしかない方は首の後ろと腰をシャワーで温めるようにして下さい。

音楽を聴く

バラードやジャズ、ヒーリングなどが良いです。夜に合うような落ち着いた曲を選びましょう。

お笑いの番組、動画を見る

自分が好きな芸人の笑える動画を見て、笑いましょう。笑うことで副交感神経のスイッチが入りやすくなります。

友人と会って話す

仲の良い友人と会って話しましょう。会って話せれば一番良いですが、LINEのビデオ通話やSkypeでもやらないよりは良いです。どうでも良いような内容でも、話すということはリラックスすることに繋がります。

食事に気をつける

特に忙しくストレスが溜まってる時は、腹七分目を心がけましょう。油の多い物は極力減らし冷たい飲食物も少なくしましょう。飲食物が多いと消化器に負担をかけます。

早く寝る

これを現代人で実行できる人は少ないかもしれません。早く帰宅できないと早く眠れないからです。遅く帰る方でも0時前には眠るようにしたいですね。眠る前にスマホを見る、ネットサーフィンをするなどの行為は交感神経優位になるのでやらないようにしましょう。また、理想的には食後3時間程度空けて床につくと良いです。

お酒はほどほどに

「お酒は眠り薬だ」こんな言葉をたまに聞きますが、酸化物質なのでアルコールを飲んでいるうちに交感神経刺激症状が出てきます。脈拍は増え、自慢話がふえるのも交感神経優位の影響です。飲んだ後は睡眠も途中覚醒しやすくなります。お酒がストレス解消という側面もありますが、うまく付き合うようにしましょう。