首の筋肉

表層~中層筋

a)僧帽筋


僧帽筋は最も表層、上方にある背筋です。大きく強力な筋で副神経に支配されています。僧帽筋は表面積が大きく多くの部分から起こり、多くの部分に停止します。上項線、外側頭隆起、後頚部の項靭帯、C7~T12の棘突起、それにC7とT12の間の棘上靭帯から起こります。そして肩甲棘、肩峰、鎖骨の外側1/3に停止します。
大きくて多くの起始や停止部を持つため、作用は上部、中部、下部で各々異なります。上部線維は肩甲骨を挙上、中部線維は肩甲骨を後退(内転)させ、下部線維は肩甲骨を下制・内転させます。
※Cとは頚椎のことでC1~C7まである。Tとは胸椎のことでT1~T12まである。

b)肩甲挙筋

肩甲挙筋の筋腹は胸鎖乳突筋と僧帽筋の深層に位置しています。C1~C4の横突起から始まり肩甲骨の上角と内側縁上部に停止します。頚椎に支えられている時、肩甲挙筋は肩甲骨の挙上を起こし、肩甲骨が固定されている時は頚椎の動力源となります。両側で収縮すると頚椎が伸展し、片側の収縮では収縮側への側屈と回旋を伴う伸展をもたらせます。

c)大・小菱形筋


小菱形筋はC5~C7の棘突起と項靭帯から起こり肩甲骨の内側縁で肩甲棘の高さ付近に停止します。大菱形筋はT1~T5の棘突起と棘上靭帯から起こり肩甲骨内側縁の下2/3に停止します。大・小菱形筋の作用は肩甲骨の内転、挙上、下方回旋です。菱形筋の筋腹には9割の頻度で変更背動脈の枝を含む結合組織が存在しているという報告がありますNishi S(1953)Miologio de Japano.Statistika raporto pri muskolanomalioj ce japanoj.Ⅲ.Muskoloj de trunk(1).Gumma J Med Sci.2:109-121。

中層~深層筋

① 頭板状筋、頸板状筋

頭板状筋は項靭帯の下半分とC7~T3またはT4の棘突起から起こります。上方は側頭骨の乳様突起と、上項線の外側1/3のすぐ下で後頭骨に付着します。
頸板状筋はT3からT6棘突起から起こり、環椎と軸椎の横突起、C3およびC4の横突起後結節に停止します。これらの停止部は肩甲挙筋の起始部より深部にあります。両側の板状筋がともに働くと、頭部と頚部が伸展します。片側の筋が収縮すると頭部と頚部が側屈し、顔面が同側にやや回旋します。
頸板状筋の筋腹は肩甲挙筋のすぐ後ろを走行します。

② 頭半棘筋

頭半棘筋は厚く強力な筋で、半棘筋群のなかで最も発達した部分です。C7からT6の横突起とC4からC6の関節突起から起こります。後頭骨の上項線と下項線間の領域の内側部に停止します。
両側の筋が同時に作用すると頭部伸展するよう働き、これらの一側性の収縮はそれぞれの椎体を反対側に回旋させます。

③ 頭最長筋

頭最長筋は上位頚椎横突起(T1~T5)とC4~C7の関節突起から起こります。側頭骨の乳様突起に停止し、頭部を伸展させる作用をします。片側のみ働くと頭部を同側に側屈させ回旋させます。

④ 多裂筋

多裂筋は半棘筋より深部にあり、椎骨の横突起と棘突起の間の溝を満たしています。この筋群は多数の筋束や腱束からなり胸椎の横突起、C4~C7の関節突起から起こります。停止は環椎を除くすべての椎骨に停止します。
多裂筋は脊柱を伸展させます。また椎体を収縮側から遠ざけるようやや回旋させたり、脊柱を側屈させたりもします。

⑤ 回旋筋

回旋筋は多裂筋より深部にあり最も深層にある筋束を形成しています。長さによって回旋筋は2つのグループに分けられます。短回旋筋の束は横突起から始まりすぐ上の椎骨の棘突起根部に付着します。長回旋筋の束は起始は同じですが2つ上の椎骨の棘突起根部に付着します。回旋筋の主要な機能は脊柱の安定にあると考えられています。

後頭下筋群(大後頭直筋、小後頭直筋、下頭斜筋、上頭斜筋)

後頭下筋群は4つの小さな筋からなり、後頭骨の下方、後頚部の最も上位に位置しています。この領域では最深部の筋で僧帽筋、頭板状筋、頭半棘筋の下にあります。大小2つの直筋と上下2つの斜筋からなります。これらの筋は、環椎後頭関節での頭部伸展と、C1関節での頭部回旋に関与しています。この筋群のニューロン当りの筋線維数は少なく3~5本です(Oliver&Middleditch,1991)。この高度な神経支配が筋張力の急速な変化を可能にして、頭部の微妙な調整や頭部位置の極めて正確な制御が可能となっているのです。

目を使う作業(パソコンやスマートフォン等)では目が付いている頭部の位置を一定に固定する必要があります。固定する時に微調整する役割を果たす主役がこの後頭下筋群なのです。ですから眼精疲労の施術にはキーポイントとなる部位です。

中国の針刀医学臨床研究によると後頭下筋群の問題により眩暈頭痛視力減退、脳卒中が起こるとされています。

⑥ 大後頭直筋

大後頭直筋はC2の棘突起から起こり、上行するにつれて幅が広がり、上方で後頭骨の下項線外側部に付着します。両側が働くと頭部の伸展が起こり、片側の収縮では顔面が同側に回旋させます。

⑦ 小後頭直筋

小後頭直筋は大後頭直筋のすぐ内側、一部は下側に位置します。下方はC1の後結節に付着し上行するにつれて幅が広がります。後頭骨下項線の内側部と下項線と大後頭孔の間に停止します。

⑧ 下頭斜筋

下頭斜筋は2つの斜筋のうち大きい方です。C2の棘突起から起こり、外側かつ上方に走行してC1の横突起に停止します。この筋は顔面が同側に向くようにC1を回旋させます。C1の横突起の長さがこの筋にかなりの機能的利点を与えています。

⑨ 上頭斜筋

上頭斜筋はC1の横突起から起こります。上方かつ後方に向かうにつれて幅が広くなります。上項線と下項線との間、頭半棘筋の付着部外側で後頭骨に停止し、大後頭直筋の停止部と重なります。この筋の収縮で頭部の伸展と同側への側屈が起こります。左右の上頭斜筋はそれぞれ2つの直筋と共同で原動筋としてより体位筋として、より頻繁に働くと考えられています。

⑩ 前斜角筋、中斜角筋、後斜角筋

前斜角筋はC3~C6横突起の前結節から起こり第1肋骨の前斜角筋結節に停止します。中斜角筋はC2~C7横突起の後結節から起こり第1肋骨の鎖骨下動脈溝後方に停止します。後斜角筋はC5~C7横突起の後結節から起こり第2肋骨の外側面に停止します。両側が働くと頚部の屈曲と肋骨を挙上させ、片側が働くと同側に側屈させます。
前斜角筋の大部分は、胸鎖乳突筋に覆われており、中・後斜角筋の大部分は胸鎖乳突筋と僧帽筋の深層に位置しています。
前斜角筋と中斜角筋の間に腕神経叢が通過しており、これらの筋肉の緊張により上肢の神経症状や胸郭出口症候群が起こる可能性があります。

また斜角筋群は頚椎の脇を縦に走行しています。これらの筋肉の緊張により、頚椎が縦方向に圧縮される負荷を生じます。その結果、頚椎と頚椎の間にある椎間板へ圧縮負荷がかかり、進行すると頚椎椎間板ヘルニアとなってしまいます。

首の断面図


上図は第6頚椎の断面図です。男性ですとちょうど喉仏の下辺りを輪切りにしたイラストです。筋肉が5層になる箇所があるのが良く分かると思います。実際に疲労しやすいのは回旋筋や多裂筋といった最深層の筋肉です。皮膚から骨までの距離は4~5cmあり、マッサージでは刺激が届きません。無理に強い圧で押すと表層筋、中間層の筋が炎症してしまいます。こういう時は深層筋まで刺激を入れられる鍼治療が適しています。