fasciaとは

facia(ファシア)とは


faciaは、日本整形内科学研究会HPでは「全身にある臓器を覆い、接続し、情報伝達を担う線維性の網目状組織。臓器の動きを滑らかにし、これを支え、保護して位置を保つ」と定義しています。
右図をご覧になると分かりますが、内臓と内臓間、内臓と筋肉や筋肉と脂肪組織の間に何もない(空洞)部分はありません。それぞれの位置関係はfasciaがつなげているのです。
2012年のFascia Reseach Congressにおいて、fasciaには多方向性高密度結合組織、皮下組織内の膜状の結合組織(浅層fascia、深層fascia)、腱膜、関節包、支帯、筋外膜、筋周膜、筋内膜、硬膜、腱、靭帯、椎間板線維輪などが含まれていると定義されました。
つまり、fasciaはほぼすべての臓器や筋、骨、神経線維などの周りや内部に存在する広い概念を持つのです。

層による分類

浅層ファシア(superficial fascia)

浅層ファシアは疎性結合組織の線維層として説明されることもあります。疎性結合組織は全体的に膠原繊維が網の目のように走行していますが、その間に液性の基質と多数の細胞が存在します。
浅層ファシアは皮下組織浅層の直下にある層で、脂肪分を含み、高い弾力性を保ちます。
浅層ファシアは筋肉と皮膚を隔て、温度調節や血行にも関係しています。

深層ファシア(deep fascia)

深層ファシアは密度の高い線維性の層です。筋肉の周りをピッタリと覆って、他の筋肉と連結しながら滑走させる役割があります。
深層ファシアは3~4層のコラーゲン線維から成ると報告されています(下図参照)。各層は斜め、横、縦方向で構成され、様々な方向の動きに対応しています。コラーゲン線維の間に疎性結合組織があり、各層が滑らかに動くように機能しています。

神経とファシア

痛みという感覚を脳へ伝え、脳から筋肉を収縮する信号をつたえる、この役目は「神経」しかありません。伝達速度が速い有髄神経と遅い無髄神経は、筋肉だけでなく、臓器や腺などにも存在します。感覚神経の場合はファシアに末端があることもあります。

神経はファシアに包まれています。
神経は中心部分からミエリン,軸索ー神経内膜ー神経周膜ー神経上膜というように膜が3層あります。神経内膜は液体を含んでおり、中にあるミエリン,軸索が多少動けるようになっています。また、神経周膜は厚い結合組織で包まれており、内部を保護しています。神経上膜は神経線維束と疎性結合組織、血管などを束ねています。
ファシアの中を走行する神経は周りをファシアで覆われることにより、保護され個別に動くことができます。
仮に神経とファシアが癒着してしまった部位があると、ファシアが動く方に神経が引っ張られ、痛みを生じる場合もあります。

疼痛とファシア

ファシアには侵害受容器が含まれており、癒着や滑走不全の部位があると外部からの刺激により痛みを生じやすくなります。
このことを利用して、ある程度徒手的に問題部位がどこであるのか、評価することが出来ます。ある程度というのは、人体は場所によっては皮下脂肪が厚かったり、そもそも深部に位置する場所は、体表からの刺激が届きにくいからです。
その方法は

  1. 筋肉を垂直方向に押圧する
  2. 筋肉を長軸に対して直角に押圧する
  3. 筋肉をつまむ
  4. 脂肪組織を押圧する

代表的なのはこの4つです。
対象は筋肉と脂肪組織とありますが、皮膚から筋肉までの間にfasciaも存在するので、どの層に問題があるのか丁寧に触診していきます。
深層の組織は鍼を入れてその「抵抗感」や「得気」により評価が出来ます。
ファシアに問題があると「痛み」や「不快感」として訴えが生じます。

問題部位を確認出来たら、そこを治療対象とするのです。

ファシアリリース治療

異常なfasciaを含む結合組織の治療は、原因となる癒着部位を直接的に剥離する直接的リリースと、癒着部位周囲の結合組織の伸張性や柔軟性を改善させることで癒着部へのストレスを減らす間接的リリースとしての手技があります。前者は鍼や注射、手術といった手段が適応になることが多く、後者は浅層であれば徒手療法や物理療法、深層であれば鍼が適応となります。

かつて「癒着」というと一般的には強固な線維性結合をイメージされていました。しかし、近年、癒着にも軽度~重度まであることが分かってきました。それぞれの段階において適応になる治療法が異なり、大きく分類すると下図のようになります。
理学療法士が関わるのはGrade 1までです。通常の鍼灸院はGrade 2までです。深部の癒着を解きほぐすにはGrade 3までがターゲットとなり、当院ではこの領域まで対応しています。

鍼と注射の違い

医療機関ではエコー下筋膜リリース注射を行う施設があります。鍼と注射、どこが異なるのか説明していきます。

1.刺鍼時の痛み

鍼治療では、鍼管(鍼を入れる筒)を用いて刺入します。鍼管が皮膚に接触した状態で鍼を入れるため、切皮痛(鍼を入れる時の痛み)を緩和させることができます。
一方、注射ではダイレクトに針を入れるので切皮痛を感じやすくなります。

2.深部へのアプローチ

鍼治療で使用する鍼の長さは30mm~120mmです。一方、 筋膜リリース注射では19mm~70mmの注射針がよく使われます。臀部は筋肉の厚みがふくよかな方ではインナーマッスルの刺鍼で120mmの長さが必要な局面があり、狙える筋肉の種類は鍼治療の鍼の方が多くあるといえます。

3.組織侵襲の違い

注射針は針先が斜めにカットされており、刃物のような形状をしています。これに対して鍼灸鍼は先端が鉛筆の先のような形状をしています。鍼灸鍼は組織をかき分けて進んでいくため、組織侵襲性は低いと言われています。

4.治療範囲

鍼灸治療は刺鍼後、薬剤や生理食塩水を注入する必要がなく、注射より広範囲に治療できます。
鍼灸鍼が注射針に比べて組織侵襲が少ないため、鍼の本数を増やしても許容できる場合が多いです。

おわりに

ファシアリリースは整形外科やペインコントロール科では、新しい概念として多くの医療機関に取り入れられてきた治療法です。
鍼以外にも注射、徒手療法、物理療法などさまざまな手段がありますが、医療業界で考えると、患者の問題レベルに応じたサービスの提供が出来ているとは言えない状況です。
鍼灸業界では「経絡」を柱に治療方針を考える流派もありますし、「組織学」を柱に治療方法を考える流派もあります。
ファシアリリースというのは組織学をベースにした考え方で、多職種間では「解剖用語」が共通言語となります。
この分野は世界的にも研究が進められており、今後更に発展していくと思われます。必要な方に必要なサービスを受けられるように、周知していきたいと考えています。