お尻の痛み

痛みの原因

「お尻が痛い」という訴えは股関節の痛みの中でも鼠径部の次に多い症状です。どんな時に痛いかというと、「腰かけていると痛い」「常に痛い」「走る時に痛い」等ありますが多いのは「腰かけている時に痛い」というものです。
このような訴えは30~50才代の女性に多くみられます。変形性股関節症の初期段階の場合もあり早めのケアをお勧めします。
ここで痛みの原因となる可能性は①筋肉のスパズム、②筋肉による神経の圧迫です。多数ある筋肉のどこが問題なのか、どのような時に痛いのか、関節の可動域や圧痛、筋力などを総合して原因組織を絞り込んでいきます。

痛みの評価

まず、痛みの部位です。大きく3つに分けられ、①上殿部、②梨状筋部、③坐骨結節部です。

①の上殿部ですが、「腰が痛い」という訴えの場合もあります。この部位は上図のように大殿筋と中殿筋が走行している部位となります。この筋肉にスパズムや骨との癒着があると痛みを生じます。この部位は絞扼される神経は無いので、どの筋肉が問題なのか圧痛を確認します。

②の梨状筋部ですが、下図のように坐骨神経が梨状筋と上双子筋の間を通過する部位です。この梨状筋が坐骨神経を締め付けて痛みが生じるという状態を「梨状筋症候群」といいます。

更に明確に神経障害性疼痛と診断される痛みの診断基準は表に示す診断基準の少なくとも2つを満たしている痛みとされています。

  1. 疼痛部位のすべてあるいは一部に感受性の低下がある
  2. 現在あるいは今までに、神経損傷を引き起こすことが知られている疾患、あるいはそれに関連した痛みを経験した
  3. 神経生理学的、外科的、あるいはニューロイメージングで神経損傷が確認された

また、梨状筋症候群は、股関節の動きにより梨状筋の緊張が変わることで症状が変化することが知られており、梨状筋の圧痛、SLRテスト、股関節の内旋強制で疼痛誘発をみるFreibergテストなどがあります。

この梨状筋を圧して痛みを生じるなら、この梨状筋が原因だと考えます。しかし、梨状筋を圧しても痛みを生じないケースもあります。この時は腸骨筋が原因ではないかと考えます。「後ろのお尻が痛くて前側が痛いわけではないのになぜ」と思われる方もいるかと思いますが、腸骨は薄い骨なので骨の前側にある腸骨筋の痛みを臀部の痛みと認識してしまうのです。

③の坐骨結節部の痛みです。これは「坐骨神経痛」と思われる方もいるかもしれませんが坐骨神経痛は主に”ふくらはぎ”に痛みが生じます。坐骨結節の痛みはこの③部分のみ痛みを生じます。
坐骨結節に付着する筋肉は大腿二頭筋と半腱・半膜様筋です。そして内閉鎖筋、下双子筋は坐骨結節付近を走行します。また坐骨結節前側に付着する大腿方形筋、外閉鎖筋、大内転筋も原因筋として可能性があると考えます。これらの筋肉に圧痛があるのか丁寧に触診します。

施術

大殿筋

大殿筋は殿部全体を覆う大きな筋肉です。表層から大殿筋ー中殿筋ー小殿筋と重なっており、その中で一番表層にあるため筋肉にスパズムがあるかどうかは触知して分かりやすいです。主な作用は股関節の伸展と外旋ですが、外転にも関与しています。臨床では骨付着部に圧痛を認めることが多く以下の部位が比較的多い刺入点となります。ここでは中央にある仙骨に針先を当てるため斜刺となります。

ハムストリングス


ハムストリングスとは大腿二頭筋、半腱・半膜様筋の3筋を指します。主な作用は股関節の伸展と膝関節の屈曲です。これらの起始は坐骨結節から始まるため、坐骨の痛みではこの坐骨結節に針先を当てて止めることがポイントになります。
中国の医学書「针刀应用解剖与临床」にも股関節屈曲位で坐骨に当てるよう刺入して良好な効果が認められると記載があります。

中殿筋


中殿筋は腸骨の外側面から大腿骨の大転子に付着する扇状の筋肉です。この筋肉は股関節外転と内旋の主動作筋です。股関節伸展位で外転した時に筋力低下がみられたらこの筋肉の問題を疑います。丁寧に圧痛点を確認して刺入ポイントを決めます。

梨状筋、内閉鎖筋、下双子筋


この3筋は深層にあるため長さ75mm~100mmの鍼を使用します。
梨状筋は表層にある大殿筋が弛緩していれば触知してスパズムがあるかどうか確認できます。仙骨前面から大転子上面に走行しているので仙骨の外縁、大転子を触り梨状筋の位置を確認した後、筋肉のライン上に2~3本刺入します。

内閉鎖筋は梨状筋と同様に、骨盤壁と臀部の筋です。この筋肉は平らな扇状の形をしており骨盤底から坐骨結節と坐骨棘の間を通り小坐骨孔を通り大転子に向かいます。筋肉のライン上に1~2本鍼を刺入します。

下双子筋は坐骨結節の殿筋面と骨盤面から起こります。この筋線維は内閉鎖筋の腱のほぼ全長に付着し、大転子に停止します。筋肉のライン上に1~2本刺入します。

腸骨筋