鼠径部の痛み

鼠径部の痛み

股関節の痛みで代表的な「変形性股関節症」の約90%が鼠径部の痛みを生じる¹)と言われています。

痛みの原因

まず、この痛みは何が問題で起こっているのか絞り込む必要があります。
痛みの原因で考えられる組織は、①筋肉、②神経、③関節包が考えられます。
まず、問診で「どのような時に痛いのか」を確認します。すると「歩くと痛い」や「ボールを蹴ると痛い」や「寝ていると痛い」といったケースがあります。

まず、シンプルに考えましょう。

  1. 安静時に痛い…神経が主要な問題
  2. 歩く、立つ、スポーツでの切り替えし動作等の動作で痛い…筋肉が問題

もちろん、単純に分けられないことも多いです。筋肉と神経両方が問題になることも多いからです。

神経について


神経が問題だったとしても、神経に鍼を入れる訳ではありません。腰椎の脇から出た神経が股関節の近くを通り、大腿部から脛の内側に走行しています。この経路の途中でどうしても筋肉と筋肉の間を通らないといけない箇所があり、筋肉の圧迫により神経痛が発生してしまうのです。
大腿神経は腰神経叢の最大の枝であり、第2~4腰神経叢から出て大腰筋と腸骨筋の間を外下方に通り、鼠径靭帯の下から大腿前面に出ます。この時、一部の神経は大腿直筋と中間広筋の間に枝を出します(上図参照)。

【筋肉の評価】


次にどの筋肉が問題なのか、です。これは触れてみて「痛み」や「不快感」があるかどうかを確認します。鼠径部といっても様々な筋肉が走行していますが、ポイントになる筋肉は3つです。図のように①~③の箇所に圧痛があるかどうかを確認します。①で痛みがあった場合は腸骨筋を疑います。②で圧痛があった場合は恥骨筋を疑います。③で圧痛があった場合はiliocapsularis muscleを疑います(上図参照)。

施術

ポイントとなる筋肉は、「腸骨筋」と「恥骨筋」、「iliocapsularis muscle」の3筋です。
まず、上記全ての筋施術は、あお向けで膝を立てた姿勢になって行います。こうすることによって腹直筋の緊張が緩和され鍼を入れやすくなります。

①腸骨筋

腸骨筋の刺鍼ですが、下記刺入点からベッドに対し垂直に鍼を入れていきます。骨盤はお椀状になっているため、途中で鍼が止まります。ここで骨盤の湾曲に沿って鍼尖転向して、仙腸関節前側まで鍼を進めます。腸骨筋は下図のように深部の方が太くなっており、太くなっている部分まで鍼を入れないと効果がありません。

②恥骨筋

恥骨筋の施術ですが、恥骨が痛い時は恥骨に付着する筋肉が骨膜を引っ張り、痛みを感じると考えます。恥骨には恥骨筋だけでなく外閉鎖筋、短内転筋、長内転筋や薄筋などの筋肉が付着していますが、圧倒的に多いのは恥骨筋の硬さに原因があります。刺入ポイントは下図の部位になります。

③iliocapsularis muscle

iliocapsularis muscleの施術ですが、まず部位の確認です。大転子(大腿骨外側の凸部分)の下縁より内側に骨を辿ると「小転子」があります。この小転子は周りに大きな内転筋の膨隆があり触れにくいケースが多いです。しかし、大転子はほとんどの方で触れることができるので、筋肉の位置は見当がつくのです。下図のように1~2本の施術を行います。