特発性大腿骨頭壊死症

基礎情報

非外傷性に大腿骨頭の無菌性、阻血性の壊死をきたし、大腿骨頭の圧潰変形が生じ、その結果二次性の股関節症に至る疾患を特発性大腿骨頭壊死といいます。
副腎皮質ステロイドの投与歴、アルコール多飲歴が壊死発生に深く関連していることは知られていますが、壊死の発生機序はよく分かっていません。難病指定の特定疾患です。

好発年齢は男性で40歳代、女性で30歳代にピークがあり、男女比は男性がやや多いといわれています。また、男性はアルコール性が多くアルコール量でいうと日本酒換算で毎日2合を10年間飲酒した例に好発します。女性はステロイド性が多く、その30%はSLE(全身性エリテマトーデス)患者で短期間に大量投与された例で好発します。

国内では年間2000~3000人が罹患するといわれています。

症状

初期症状として股関節痛が発症することが多く、階段や小さな段差を降りる時、歩く時など股関節に小さなストレスがかかった時に急性の疼痛が出現することが多いといわれています。痛みの部位は膝や臀部を伴うことがあり、膝や腰の疾患として誤診されることがあるので注意が必要です。
初期の痛みは2~3週で軽快することが多いですが、進行すると持続的な痛みになります。

診断

一般的には厚生労働省特発性大腿骨頭壊死症調査研究班の診断基準を照合します。X線所見と検査所見の5項目のうち2つ以上を満たせば特発性大腿骨頭壊死症と診断します。

特発性大腿骨頭壊死症の新診断基準(厚生労働省特発性大腿骨頭壊死症調査研究班,2001)
X線所見(股関節の単純X線像の正面像および側面像より判断する)
1.骨頭圧潰(骨頭軟骨下骨折線)を含む
2.骨頭内の帯状硬化像の形成[1.2についてはstage4(変形性股関節症に進行した時期)を除いて関節裂隙の狭小化がないこと、寛骨臼に
は異常所見が無いことを要する]
検査所見
3.骨シンチグラム:骨頭のcold in hot像
4.MRI:骨頭内帯状低信号像(T1強調像のいずれかの断面で骨髄組織の正常信号域を分画する画像)
5.骨生検標本での骨壊死層像(連続した切片標本内に骨および骨髄組織の壊死が存在し、健常域との境界に線維性組織や添加骨形成などの
修復反応を認める像)
診断の判定
上記項目のうち2つ以上を満たせば確定診断とする
除外項目
腫瘍および腫瘍性疾患、骨端異形成症は基準を満たすことがあるが、除外を要する
なお、外傷(大腿骨頸部骨折、外傷性股関節脱臼)、大腿骨頭すべり症、骨盤部放射線放射、減圧症、などに合併する大腿骨頭壊死、および
小児に発生するPerthes病は除外する

病型分類
診断時にX線あるいはMRI検査により壊死範囲の大きさによる病型分類を行い、治療や予後予測を行います。

type A :壊死部が臼蓋荷重部の内側1/3未満にとどまるもの、または壊死域が非荷重部のみに存在するもの
type B :壊死部が臼蓋荷重部の内側1/3以上2/3未満の範囲に存在するもの
type C-1 :壊死部が臼蓋荷重部の内側2/3以上に及ぶもの
壊死部の外側端が寛骨臼蓋内にあるもの
type C-2 :壊死域が臼蓋荷重部の内側2/3以上に及ぶもの
壊死域の外側端が寛骨臼縁を超えるもの

評価

問診
いつ頃から痛みを感じたのか、医師の見立て、現在どういう姿勢や動作で痛いのか確認します。またMRI等の画像があるようでしたら拝見します。

触診
疼痛部位の周辺の筋肉の緊張や圧迫して痛みや違和感がないか確認します。

関節可動域
股関節の屈曲、伸展、内転、外転、内旋、外旋の6方向、スムーズに動くか確認します。

筋力
必要に応じて筋力が問題なく発揮できているか検査します。

歩行
歩行で痛みを生じている場合は、歩き方に問題がないか確認します。

一般的な治療法

初期は比較的強い痛みを生じることがありますが、杖の使用や鎮痛薬を服薬することで症状が軽快することも多くあります。しかし、日常生活で股関節にはどうしても荷重がかかってしまうので、圧潰が進む傾向があります。

保存療法

壊死の範囲が狭い例や壊死が非荷重部に存在する例(type A , B)では経過観察を基本にします。投薬を進めるのと同時に日常生活で股関節に大きなストレスがかからないように注意してもらいます。具体的には「なるべく床に座らず椅子を使う」「階段は極力使用を控える「スポーツ動作は極力減らす」というようなことです。

手術療法

壊死の範囲が広い、または圧潰が進行した場合では大腿骨内反骨切り術や大腿骨頭回転骨切り術を行うことがあります。すでに変形がかなり進んでしまい、上記のような術式で改善が見込めない場合は人工骨頭置換術や人工股関節全置換術を行う場合があります。

当院における治療法

まず、鍼灸の適応ですが基本的には病型分類type A,Bを主な対象とします。type Cでどうしても手術をしたくないという方は問診と総合的な評価を合わせて施術を行うか否か判断します。
教科書的に大腿骨頭壊死の原因は不明と言われていますが、力学的な考察は今だ不十分だと考えています。下図をご覧になると分かるかと思いますが、股関節周囲の筋肉で深層筋と表層筋(ここでは小殿筋と中殿筋のベクトルを表記してあります)ではベクトルの向きが異なります。大腿骨頸部の長軸に近い方がどちらかというと、「深層筋」ですね。そうです、深層筋の緊張により大腿骨頭が骨盤の臼蓋に押し付けられるような作用が生じます。圧迫されると当然血行障害が伴います。とくに大腿骨頭は主要な血行を補う側副路に乏しいため、本流がせき止められると骨頭への栄養が行かなくなり壊死してしまうのです。
中国では小針刀による股関節治療が一般的に行われており、子供は2年、高齢者は3年で完治させています。その書籍ではレントゲン写真が掲載されており、股関節が癒着していたのが徐々に骨頭と臼蓋の間に隙間が広がり、関節可動域も改善したと記載がありました。
比較的初期の状態であれば5,6回の施術で完治しますが、数年にわたり痛みに悩んでいた方は1,2年の施術が必要です。なぜ、そんなに長く通うのかというと、少しずつ改善が実感できるからです。40~50歳代では医師も人工股関節を強く勧めることは稀かと思います。耐用年数を考えると再置換しなくてはいけないからです。
小殿筋や外旋筋群、腸骨筋などの深層筋施術を行うには75mm~100mmの鍼は必須となります。この長さがないと確実に深層筋を緩めることはできないからです。