腰のしくみ

はじめに


人の体は大きく分けて胴体、四肢(両上肢と両下肢)、頭部に分けられます。上肢は作業することに役立ち、下肢は体重を支えて移動することに役立ちます。胴体は左右の中央に背骨(脊柱)があります。
背骨(脊柱)は、頚椎7個、胸椎12個、腰椎5個、仙椎5個、尾骨3~6個が連なっています。頚椎から腰椎にかけて背骨自体の大きさは大きくなります。これは下にいくほど体重負荷が大きくなるため、この負荷に耐えられるよう進化したといえます。
背骨の中には脊柱管という孔があり、脳から下降してくる脊髄神経が入っています。この脊髄神経が幹となり、頚椎~腰椎の側面から枝となる神経が出ています。
仙椎は骨盤と連結しており、背骨の動きは骨盤に大きく影響することが容易に想像できます。逆に骨盤の動きが背骨に影響しやすいともいえます。このように骨同士は関節で連結されていて、私たちが日常生活や仕事、運動する時も常にそれぞれの部位が連動して成立しているのです。
地球上の物体には、すべての部分に重力が作用しています。重力は力の方向が平行であるため、その作用点をひとつに合成することができます。その作用点を「物体の重心」といいます。人体の重心は骨盤内の第2仙椎前方にあるといわれています。普通、皆さんが「腰」というのは腰椎から骨盤あたりを指すかと思います。このように体の中心付近にある腰は体の使い方や姿勢によって影響を受けやすい部位といえます。

A)腰の構造

腰椎

脊椎の前方部分にある円柱状の部分を椎体といいます。腰椎は脊椎の中でも最も大きく丈夫です。この椎体はカルシウムの貯蔵庫としても役割があり、高齢になり骨粗鬆症になるとこの椎体が脆弱になり、尻餅をついただけで骨折(潰れて)してしまうこともあります。
後方には肋骨突起、関節突起、棘突起という突起があります。棘突起の両脇に関節突起があり、上下の腰椎と関節を成しています(椎間関節)。関節突起は2対あり、上面にあるのを上関節突起、下面にあるのを下関節突起といいます。上関節突起の内面に関節面があり、下関節突起の外面に関節面があります。一番外側にある大きな突起を肋骨突起といいます。

椎間板


腰椎と腰椎の間にはこれをつなぐ軟骨が挟まっています。これを椎間板といいます。椎間板は線維輪と髄核に分かれます。髄核はゼリー状で水分を約80%含み、弾力性があります。その周囲を線維輪という層がいくつも重なり合い、取り巻いています。この線維輪と髄核が変形することでクッションの役割を果たし圧力を分散してくれているのです。例えば前屈後屈、側屈、回旋など体のあらゆる動きに対応して椎体と椎体を接着させながら、体幹のなめらかな動きを可能にさせてくれます。
線維輪に亀裂が入る、または椎間板が変性してくると「腰椎椎間板症」や「腰椎不安定症」といった腰痛の原因となります。椎間板の一部が脱出して神経を圧迫すると「腰椎椎間板ヘルニア」といわれる状態となります。

椎間関節

棘突起の両脇にあり、椎骨同士を連結しています。この関節は下関節突起の外面と上関節突起の内側で関節を成しているため、上関節突起が下関節突起を挟み込むような構造をしています。

脊柱靭帯

これは椎骨同士をつなぎとめるロープのような役割をします。元の長さの1.2倍程度まで伸縮性があり、脊椎が動きすぎないように運動の最終域で引き伸ばされ、これ以上の動きは危険だというポイントでブレーキをしてくれています。
この靭帯が変性してしまうと異常に硬くなることがあります。「変形性脊椎症」や「強直性脊椎炎」といった腰痛の原因となる場合があります。

骨盤

脊椎は骨盤と連結しています。言い換えると脊椎は骨盤という土台の上に乗っているともいえます。骨盤は足から伝わる衝撃をやわらげ、上半身の重みを支えなければいけません。
骨盤が脊椎と連結しているので、「骨盤が動けば脊椎も動く」または「脊椎が動けば骨盤も動く」といった連動が起こります。これは姿勢にも影響して立った姿勢で膝を曲げると腰椎は後弯(後ろに凸)して、ハイヒールを履くと腰椎は前弯(前に凸)します。

B)腰部の筋肉

胸・腰部の運動に関する筋肉は部位により3つに区分されます。

  1. 後面: 長背筋群(脊柱起立筋):腸肋筋、最長筋、棘筋
    短背筋群:横突棘筋群(半棘筋、多裂筋、回旋筋)、棘間筋、横突間筋
  2. 側面: 腰方形筋、腸腰筋
  3. 前面(腹部の筋): 腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋
  • 脊柱起立筋(腸肋筋、最長筋、棘筋)
  • 起始:仙骨、下部腰椎、腸骨稜
  • 停止:第1-12肋骨角
  • 作用:胸腰椎の同側回旋、伸展、側屈

腸肋筋と最長筋は厚みがあるため、比較的触診しやすいです。棘筋は棘突起外側の深部にあり、最長筋との区別を触診することは難しいです。
脊柱起立筋のスパズムは、急性・慢性の酷使(長時間前かがみの姿勢で立つ、物を持ち上げる、長時間の座位、不良姿勢)などが原因となることが多いといわれています。
脊柱起立筋群にスパズムやトリガーポイントがあると、体幹の屈曲や側屈が制限される場合があります。

短背筋群(横突棘筋群)

  • 起始停止:骨盤、脊椎、頭部に付着しています。個々の横突棘筋がそれぞれ下位の横突起や肋骨突起から上位の棘突起に付着します。
  • 作用:脊椎関節で体幹を伸展、側屈、対側回旋
    骨盤を前傾および挙上

横突棘筋群は半棘筋群、多裂筋群、回旋筋群の3つの筋群で構成されています。回旋筋は1~2つ上の椎骨に付着し、多裂筋は3~4つ上の椎骨に付着し、半棘筋は5つ以上上の椎骨に付着します。

横突棘筋群のスパズムは、脊柱起立筋と同じく急性・慢性の酷使(長時間前かがみの姿勢で立つ、物を持ち上げる、長時間の座位、不良姿勢)などが原因となることが多いといわれています。この筋群にスパズムやトリガーポイントがあると、屈曲、伸展、側屈で制限され、腰椎前弯が増強する傾向があります。

腰椎の運動学で述べていますが、日常生活では上半身が前かがみになる動作・姿勢が圧倒的に多いです。そうなると必然的に後面の筋肉の活動量、活動時間が長くなります。その結果、後面の筋肉に疲労が溜まりやすく、緊張しやすくなります。ですから、問題点のポイントは後面の筋肉と姿勢調整に関与する深層筋となります。

C)腰椎の運動学

脊椎は頚椎―胸椎―腰椎とありますが、腰椎は最も容積が大きく腰椎の中でも第5腰椎が最大です。腰椎は上半身の重さを支え、重量物の運搬方法によっても大きく負荷が変わり、大きな可動域も必要です。第3腰椎と第4腰椎の間にある椎間板にかかる圧力は立位時に体重の2倍になるといわれています。
腰椎の椎間関節は前後方向、横方向に動きはとれますが、回旋はかなり制限されます。
また、体重を受けとめる機能は椎間板ほどではありませんが、ある程度あります。これは腰椎の前後湾曲角によっても負荷が変わり、前弯角が増すほど、椎間関節へのストレスも増えてきます。

日常生活ではよく「前かがみ姿勢」をとることが多いかと思いますので、この姿勢での腰椎に対するメカニカルストレスを説明します。前かがみになると上半身重心が前方に移動します。すると、下図のようにテコの作用点が前方へ移動します。このため、力点となる筋収縮が大きくなり、支点となる腰椎、特に前方にある椎間板に大きな負荷が生じます。
ここまでは、自重での負荷を例に挙げましたが、両手に荷物を持つと当然、作用点にかかる負荷が大きくなり、結果的に椎間板へのストレスも増えるわけです。